まるで潜水艦のような大きく出っ張った頭部が特徴的なマッコウクジラ。
マッコウクジラは、偶蹄目マッコウクジラ科マッコウクジラ属に分類されるハクジラ類の一種で、体の大きさはハクジラ類の中で最大となります。
さらに歯のある動物全部の中でも世界最大の大きさとなる動物です。
英語ではsperm whaleと呼ばれますが、マッコウクジラの頭部にある鯨蝋と呼ばれる白濁色のクジラの脳油が精液に似ているため、精液と間違われていたことが由来です。
マッコウクジラは北極から南極まで世界中の海に生息していますが、メスと子どもたちの群れは熱帯や亜熱帯の海域に1年中とどまりメスが共同で子育てする定住性ですが、オスのマッコウクジラは単独または数頭の群れで高緯度海域まで回遊し、繁殖のため赤道海域に戻る生態があります。
日本でも小笠原諸島周辺で子育てを行っているメスのマッコウクジラの群れを見ることができ、ホエールウォッチングも盛んです。
マッコウクジラの大きさは、オスの体長は16~18m程度なのに対し、メスの体長は12~14mくらいで、
オスの体重が50トンに対しメスの体重は25トンと、クジラの中でオスとメスの身体の大きさの違いが最も大きいのもマッコウクジラの特徴です。
クジラの寿命は体が大きくなるにつれ長寿となる傾向が見られますが、マッコウクジラの寿命も70年ほどと非常に長生きするクジラです。
マッコウクジラは海洋哺乳類の中でも潜水能力が非常に優れたクジラであり、生涯の3分の2は深海で過ごします。
そのため生まれたばかりの赤ちゃんでも母親からすぐに潜水するための教育を受けさせられます。
マッコウクジラは水深1000メートル程度までは楽々と潜水し、3000メートルもの深海への潜水も可能です。
さらに最大90分もの長時間にわたって潜水することも可能なまさに潜水能力の高さが特徴のクジラなのです。
また肥大化した特徴的な頭部の重さを調節して、深海への潜水と海面への浮上を助けるバラストとしての機能もあり、鯨蝋とも言われるこの脳油が大きな役割を担っています。
どういうことかというと、深く潜水したい時は脳油を冷却して密度を小さくし開いたスペースに鼻孔から海水を取り入れて身体を重くして潜水を助け、海上に浮上したいときは脳油を温めて海水を体外に排出し、体を軽くし浮上を助けます。
地球上のあらゆる生物の中で最大の脳を持つマッコウクジラは、知能が高い動物としても有名です。
イルカやシャチのように、超音波を発し仲間とコミュニケーションを取ったり、獲物の位置を把握する反響定位(エコーロケーション)として超音波を使用しており、
潜水艦や船に搭載されているソナーのようにこの超音波を操る能力により、光の届かない真っ暗な海底でも仲間や獲物の位置や状況を正確に把握することができるのです。
肉食性のマッコウクジラは、ヤリイカやクラゲイカ、ダイオウイカといった大型のイカを主な餌としており、食事の95%はイカを食べるほどイカが大好物です。
歯を持つマッコウクジラの食事の量は、1日に何百キロもの魚と1トンのイカを食べてしまうほどの大食漢です。
ちなみに世界最大の哺乳類であるシロナガスクジラには歯がなく、プランクトンやオキアミなどが主食となります。
マッコウクジラは15~20頭の群れで生活しており、メスの母親とその子どもたちからなる母系家族となります。
オスは基本的に単独で行動しますが、ほかのマッコウクジラからの危険信号を超音波で感じ取った時などは、仲間の危機に敏感に反応しシャチなどの外敵から救出に現れます。
全世界の海に生息するマッコウクジラは、油の原料となる鯨蝋と、香水の原料となる竜涎香(りゅうぜんこう)の希少性から世界で大量に乱獲され、大きくその生息数を減らし絶滅危惧種に指定されています。
現在は一部の調査捕鯨以外でクジラを捕獲するのは禁止されており、マッコウクジラの生息数は徐々に増えてきています。
ちなみに日本も調査のための捕鯨を行っていますが、この調査捕鯨を非難している国や団体も多く、超音波を使用してコミュニケーションを取るような知能の高い動物を殺すべきではない、というのが主な主張となっています。
今回はマッコウクジラがその好物であるダイオウイカとバトルを繰り広げている動画です。
ダイオウイカは、開眼目ダイオウイカ科に分類される巨大なイカで、伝説の怪物「クラーケン」のモデルにもなったと言われています。
ヨーロッパで発見されたダイオウイカは体長18mを超えたものも発見され、世界最大の無脊椎動物と考えられています。
マッコウクジラが超音波を駆使してダイオウイカを捕まえますが、巨大なダイオウイカも吸盤やその爪でマッコウクジラに反撃しています。
深海で行われている巨大生物同士の戦いをぜひご覧ください。